『よく観察する』ことで研究の『勘』を養う
株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社(以下、「R&D社」)、埼玉リサーチセンターでセンター長を務める加藤淳一さん(※役職等は、取材時点・掲載時点)に、お聞きしました。
大学講師からR&D社のリサーチセンター長へ
― 加藤センター長の経歴をお聞かせください。
加藤 私がこれまで一貫して従事してきたのは有機合成の研究開発です。順を追ってご説明すると、東京大学大学院で向山研究室に所属して博士号を取得、青山学院大学の理工学部化学科で3年間助手を務め、財団法人野口研究所(現在は公益財団法人)に入所しました。その後、東京農工大学の常勤講師として学生の卒業研究などを指導、任期を終えて転職先を探すことになり、R&D社(当時は㈱ハイテック)に出会って入社しました。入社後は企業や財団で研究開発をサポートしていました。そして5年が経過する頃、当時の埼玉リサーチセンターのセンター長が職を退かれることになって後任となり、現在に至ります。
教授や講師が『論文』に込めた学生への思い
― これまで多くの大学や団体で研究に携わっていらっしゃいますが、一般企業との違いはどんなところでしょう?
加藤 大学に代表されるアカデミア(研究・教育機関)での大きな目標のひとつに研究成果を論文として発表するということがあります。翻って企業での研究は商品化を実現することが最大の目標です。また予算面でも違いがあります。大学の研究室の予算は思いのほか少なく、大学からもらえるお金だけで十分な研究を行うのは困難なことが多いのです。そのため教授や講師の方が国や企業に掛け合って研究費を獲得し、ようやく研究ができているというのが実情です。ただ、国や企業を相手に説得材料もなく交渉しても話は進みません。そこで力を発揮するのが『論文』です。論文の内容に将来性、可能性が認められれば、資金提供の確率も高くなります。つまり、論文は研究予算を獲得するため、言い換えれば「学生に充実した研究環境を提供したい」という教授や講師の思いが込められていると私は考えています。R&D社では多くの大学の研究もサポートしていますが、学生の皆さんは教授や学校関係者のそんな苦労を念頭に置いて研究開発に打ち込んでいただきたいですね…と、格好良く言ってみたものの、実は私は研究費の工面はあまり得意ではありませんでしたが…(笑)。
料理のように五感を活用し研究の『勘』を磨く
― 研究で最も大切なのはどのようなことだとお考えでしょうか。
加藤 研究はよく料理に例えられますよね。しかし料理をする人に聞くと、自分の目や耳、鼻、舌などで感じ取ることをすべてマニュアル化することは困難で、レシピというのは、結局、個人の勘と経験に頼るしかないそうです。そして一流の研究者も例外なく優れた勘をもっています。その勘を養うために大切なのは、実験中に対象から目を離さずよく観察すること、変化を決して見逃さないことだと私は思っています。繰り返し観察することで、料理で言うところの『さじ加減』『具材の色や調理中の音の変化』『使う材料による違い』などがわかってきます。その結果、研究者としての勘が身についてくるのだと思います。例えに出した料理にもいろいろ種類はありますが、研究の中でも私が専門とする有機合成は特に多くの知識と経験が必要な領域だと言っていいと思います。多くの研究者が携わるさまざまな分野の研究はどれも必要かつ不可欠なものですから、研究内容そのものに優劣や上下は一切ないと考えていますが、有機合成の研究手法を一言で表現するならば「化学系の知識と技術の集大成」だと思っています。具体的な例を挙げると、試薬の特性や扱い方などの基礎化学に始まり、危険物の知識や合成段階での分離分析技術、解析機器を使った構造解析技術など、多くの技術が必要とされるのです。
「面白いと思えない仕事」だからこそ学べることがある
― テクノプロ・グループに入社した若手社員にアドバイスをいただけますか。
加藤 「面白い仕事ばかりできる訳ではない」ことはお伝えしておきたいですね。私自身、専門外の研究もお手伝いしてきましたし、恐らく失敗すると分かっている研究を行ったこともあります。そうした時は誰でも「面白くないな…」と思うものです。しかしそういった研究も次につなげることができます。失敗した研究データを報告書にまとめることで、次の人が同じ失敗を繰り返さずにすむからです。無駄な仕事は絶対にありません。仕事を自分の成長の糧にできるかは自分自身に委ねられていると思って仕事をしていただきたいですね。テクノプロ・グループの『6つの約束』にある「主体性をもって業務に取り組みます」という一文は、まさしくこういった姿勢を示したものではないでしょうか。
加藤さんが伝えてくれた論文に込められた『思い』、研究に必要とされる『勘』を磨くための努力の大切さ、そして仕事に対しても常にポジティブに取り組むことの重要性、ぜひこれらを意識し、自分の仕事に取り組んでください。
(2016.05.25)