※テクノプロ・エンベデッドは2017年10月にテクノプロ・デザイン社となりました。
2016年12月にテクノプロ・グループの一員に加わったテクノプロ・エンベデッドは主に制御分野の開発を得意とする企業であり、仙台本社と東京支店の2拠点で総勢50名のエンジニアが活躍しています。今回訪問した仙台本社では第1開発課の約30名のエンジニアが、駅務装置・車載機器・製造装置など様々なプロジェクトを手がけています。
インタビューに応じていただいた新沼さんは、第1開発課の課長として営業担当者と連携した受注活動、プロジェクト管理、お客様とのレビューといった業務を推進しつつ、時にはみずから開発作業もこなすマルチプレーヤー。そんな新沼さんに貴重なお時間を割いていただき、お話を伺いました。
実体験を経て得た知見が仕事を進める上で大切になる
― テクノプロ・エンベデッドは組込開発分野でかなりの実績を持つ会社ですので新沼さんも数々のプロジェクトを手がけてこられたと思います。円滑に仕事を進める上でご自身が思う秘訣のようなものはありますか?
新沼 私が当社に入社したのは2005年ですが、それまでも含めて『業界初』というものをいくつか担当してきました。その経験を経て言えるのは、実体験を通して得られる知見を役立てることが仕事を上手く進めるために大切だということです。
やったことがないものにチャレンジすると当然、予想もしないような苦労に見舞われますが、結果としてその実体験が後で活きてきますね。
私は2001年頃にハンズフリー機能を搭載した欧州向け車載機器の開発を担当したことがあるのですが、その時にも結構苦労した記憶があります。
もしかすると若い方は知らないかもしれませんが、2001年といえば日本ではちょうどNTTドコモが『FOMA』をスタートさせた時期で、ようやく携帯電話が一般に普及し始めた頃です。そんな時代に、ヨーロッパではもうすでに今のスマホのようなものがノキアやソニー・エリクソン(現ソニーモバイルコミュニケーションズ)などいくつかのメーカーから発売されていたんです。そういった、当時のヨーロッパの先進的な携帯電話には近距離無線通信技術であるBluetoothが標準搭載されていましたが、まだ新しい規格だったこともあって接続相手となる機器が非常に少ない状況だったんですね。
そんな中、私はそのBluetoothの機能を利用して自動車を運転しながらでも通話ができるハンズフリー通話機能の開発を担当するチームで仕事をしていたんです。
当時はBluetoothの規格や仕様が明確に確立されていない時代で、携帯電話会社によってつながるはずの機器がうまくつながらない、などということが頻発していました。そのため私たちも開発段階でヨーロッパで発売されているすべての携帯を全種類、購入して入念に通信テストを繰り返したんですが、機種ごとにクセがあるせいか、どうしても解消できない不具合が出てしまいます。そこで、評価体制を強化するために現地の評価会社と共同で新機種が出ても対応できるような仕組みを作り、最終段階ではベルギーやオランダなど各地に実際に行って実機テストを繰り返しました。
そうすると、机上の設計や計算では問題ないはずなのに現地に行って国境を越え、キャリアが切り替わった途端に通信状態が不安定になる、といったことを実際に体験できるわけです。こういう実感を伴った経験が、以後のテスト仕様書作りや評価体制の構築などに大いに役立ちました。
商品開発のための仕様書をユーザー目線に立って作る上でも、適切な開発期間で開発を完了させる上でも、実体験が重要であることがよく理解できた経験でしたね。
― いくつものプロジェクトを経験してきた新沼さんだからこその言葉ですね。
新沼 もちろん、実体験が大切であるとは言いつつも、自分に都合の良い形で体験を重ねることは難しいという側面があるのは否めません。特に、新規の開発案件では開発の後半段階になって初めて実機テストで重要な体験をすることが珍しくありません。それまではあちこち遠回りして進むしかないのか、と感じてしまうかもしれませんが、実体験できない部分についてはお客様の話などから得る情報で補完できると私自身は思っています。お客様と上手くコミュニケーションを取ることによってノウハウを吸収し、いかに実機の立ち上げからテストまでをスムーズに進められるかが重要であり、受託開発が成功するか否かに直結しているのだと思います。
時には断る勇気を持つことが結果として信頼につながる
― お客様の話から情報を得るためにはどうすればよいのでしょうか?
新沼 私は第1開発課を任されていますが、営業が案件の依頼を受けると、まずは私が担当営業と一緒にお客様を訪問します。そして依頼者から要望を聞く際には、自分の中で新規に開発する部分と既存プログラムの改造で対応できる部分の切り分けや技術的な難易度、リスク分析、実現可能性といった様々な角度に思考を巡らせながら意見交換や確認作業をします。そうやって想定の範囲をできるだけ広げておくことで、プロセスの途中で何かが起きても対処しやすくなるのです。
実体験できない部分を埋めるピースをお客様の話の中から少しでも多く集めなければなりませんので、開発のすべての工程の中でもこの最初の意見交換や確認作業がもっとも重要だと言っても過言ではないと思いますよ。経験を積んでくると、お客様の話を聞いている段階で受注すべき案件か否かまで、ある程度分かってくるようになります。
会社に戻り開発リーダーを交えた打ち合わせを経て受注する方針を固めた場合は概算ステップ数を算出し見積を出しますが、その見積には必要十分なリスク対策が盛り込まれていることが欠かせません。
また、技術的に難易度が高すぎると思われる場合や、開発要員の確保が困難な場合など、最終的にお客様にご迷惑をかけてしまう可能性が高いと判断した時には断る勇気を持つことも重要です。営業担当者の立場から見れば残念な話だろうとは思いますが、最終的にはそのほうが会社の信用につながるのではなでしょうか。
テクノプロ・グループ入りで体制強化とビジネス拡大へ
― テクノプロ・グループに加わり、実際に感じた変化などはありますか?
新沼 まず、グループの一員になったことでメンタルヘルス・過重労働対策・教育研修制度など、これまで自社で力を入れようと思っていてもどうにもならなかった部分が一気に充実しましたので、特に若いエンジニアの間には安心が広がったのではないかと見ています。まだまだお聞きできていない制度などもたくさんあるのではないかと思いますので、いかに上手に活用していくかが今後の課題ですね。
また、事業面においてもシナジーが発揮できると考えています。特に駅務業務は、鉄道会社の年度施策の都合から毎年春先にオープンが集中する下期偏重型の開発体質になることが避けられません。これまでは外部の協力会社にお願いして増加する開発工数を何とかこなしてはいましたが、中には要員計画が立たなかったために受注を断念したケースなどもあります。
また、オープン終了後、仕事が一段落するタイミングで協力会社との契約はいったん終了となりますので、やっと仕事を覚えてもらった頃に終了、という状況が繰り返されていました。
もちろん、協力いただいた外部エンジニアの方々のスキル向上は私たちにとっても嬉しいことである半面、自社への技術の蓄積が思うように進まないことが悩みの種でした。
しかしグループ会社のエンジニアであれば、今後はOJTなどに時間を掛けてもすべて蓄積されることになります。仕事を覚えて開発センターなどに持ち帰ってもらうことで受注量も増やせると思いますし、いろいろな形で仕事が広げられるはずです。
昨年12月にテクノプロ・グループという大きな組織への仲間入りをしたことは、制度面から見ても、仕事の面から見ても、非常に良かったと私は思っています。
(2017.04.10)