米国を中心に店舗を展開しているTechShopのアジア第1号店として2016年4月1日にオープンした「TechShop Tokyo」は、広さ1200平方メートル、天井高は最高8メートルという開放的な空間に金属加工、溶接、木工、3Dプリンタなどの樹脂加工、電気工作、テキスタイルなど本格的な工作機器や3次元CADソフトなどを揃えた会員制オープンアクセス型のDIY工房です。オープンなモノづくり環境でアイデアと革新の距離を短縮することを目指すこのTechShopの理念に賛同して法人会員となったテクノプロ・デザイン社では、有志のエンジニアに同施設を利用する機会を提供しており、テクノプロ・デザイン社・品川支店の塚原教史さんもその一人。今回はTechShopを利用中の塚原さんを取材し、さまざまなお話を伺いました。
TechShopで10年来の願いが実現
―本日は取材のお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、TechShopの利用を申し込んだ経緯についてお聞かせいただけますか?
塚原 TechShopの利用については、支店から所属エンジニアに対して「利用しませんか?」という案内があり、興味を持ったのがきっかけです。施設について調べてみるといろいろと本格的な工作機械が使えそうだったので、「これはいいな」と思って申し込みました。実は昔から工作が大好きで、一時期は個人で旋盤を買って自宅に置けないものかと本気で考えたこともあったのですが、さすがに無理であきらめたという過去もあったので(笑)、自分にとっては願ってもない話でしたね。
―実際にTechShopを利用してみて感想はいかがでしょうか?
塚原 私はまだ2回目の利用で、まだ工作機械を使って加工する作業などはできていませんが、金属や木材の加工以外にも溶接機や3Dプリンタなどもありますし、テキスタイルや皮革の加工ができる機材も揃っていて、「これが作りたい」という明確な目標のある方にとってはすごくありがたい施設だと思います。
―塚原さんご自身はTechShopでどんなものを作りたいとお考えですか。
塚原 スターリングエンジンを作ろうと思っていまして、今はそのパーツを3次元CADでモデリングしている段階です。
―不勉強ですみません、「スターリングエンジン」というのはどういったものなのでしょうか?
塚原 スターリングエンジンというのは、シリンダー内の気体を外部から加熱・冷却してピストンを回すことで動力を得るタイプのエンジンで、ガソリンエンジンなどの内燃機関に対して外燃機関と呼ばれるものの一種です。このエンジンは内燃機関と異なり、作動音が静か、熱源を選ばない、エンジンそのものは排気ガスを出さないといった特性を持っていて、廃熱や地熱といった熱エネルギーが回収できるなど、次世代の環境調和型エンジンとしても期待されています。最近では運搬船や潜水艦などで試験的に運用されています。
―エンジンを作るとなるとかなり大掛かりな作業になりそうな気がしますが……。
塚原 小さなものであれば工学系の学校などの課題で組み立てたりしますし、私が今回作ろうとしているものも約20~30点のパーツで組みますから、そこまで大規模なものではないんですよ。
実は私も昔、大学で機械工学を勉強していた時にスターリングエンジンをひとつ製作したことがあるんです。実際に自分で作ってみると、「次はここを改良したい」「発電機構を追加したらどうだろう」といったアイディアがいろいろと湧いてきたんですが、先ほどもお話した通り個人で加工のための設備を揃えるのは困難ですし、改めてまたスターリングエンジンを作るのはとんでもなく無謀なことだろうな……と思っていました。でもTechShopで本格的な加工機械が使える環境が得られたので、10年近く温めてきた構想を実現しようと思って張り切っています。まあ、設備があるからといって簡単に作れるものではないので、「とんでもなく無謀」が「そこそこ無謀」になっただけかもしれませんが(笑)。
技術者を目指し転職を決意
―テクノプロ・デザイン社には昨年入社されたそうですが、昔からエンジニアとしてお仕事をされていたんですか?
塚原 いえ、先ほどお話したとおり工作好きでしたから、大学卒業後はマシニングセンターなど加工機械のオペレーション業務に従事していました。ただその職場でキャリアの限界を感じてしまったこともあり、一念発起して職業訓練学校に半年間通ってSolidWorksやCAMなども含め設計・製造の基礎を学びました。そういえば、このペンケースは私の愛用品ですが、これはその学校で課題としてモデリングから金型作りまで自分でやったものなんですよ。
その後、新しい会社にエンジニアとして転職したのですが、その会社では経営状態が良くなかったこともあって自分が望む仕事を担当することができなかったんです。しばらくはその会社で頑張ってみたのですが、状況が改善する見込みがなかったため、自分の将来のキャリアのことも考えてテクノプロ・デザイン社への入社を決断しました。
―転職先としていろいろな会社を検討されたと思いますが、その中からテクノプロ・デザイン社を選択した決め手は何だったのでしょうか?
塚原 採用担当の方の説明を聞いて研修制度が充実していそうだと思ったこと、それから案件が豊富にあって自分の希望する仕事ができるチャンスが多そうだと感じた点が大きかったですね。前の会社もそうでしたが、中小の会社だと仕事の選択肢がどうしても限られてしまいがちですので。
―現在は入金機やレジなどに使われる装置を手がけるメーカーで業務を行っているそうですが、職場の環境などはいかがでしょうか?
塚原 現在の職場に配属されてからは試作品の評価業務を行っていますが、まだ半年ほどしか経っていないので、今は仕事を覚えるので精一杯という状況です(笑)。ただ、配属先のエンジニアの方に対して試作品を組み立てて自分が気付いたことを伝えたり、改善のための提案を行ったりということは徐々にできてきていますので、これからもっといろいろな経験を積んでスキルアップしたいですね。
ひとつの分野の追求が多芸に通じる
―業務を離れたTechShopでの活動はエンジニアとしてのキャリアアップに役立ちそうですか?
塚原 役立つと思います。たとえば今の配属先で扱う製品で使われるのは板金加工がメインで、私が今後TechShopで使おうとしている金属の切削加工技術は使われませんので、直接的には役に立たないように思えてしまいます。ですが、ひとつの技術を究めれていれば、別の技術分野に携わった時にその専門性や技術を究めるためのノウハウが生きてくる場面がきっとあるはずです。「一芸に秀でる者は多芸に通ず」とも言いますし、TechShopを上手く活用してエンジニアとしての知見を広げていきたいと思っています。
―では最後に、エンジニアとしての将来の夢を教えていただけますか。
塚原 私は飛行機がものすごく好きなので、将来はぜひ航空分野の仕事に携わりたいですね。週末はよく車を借りて空港まで出かけて、飛行機を眺めながらそんなことを考えています。
―空港まで見学に行くとは、本当に飛行機がお好きなんですね! 羽田空港ですか?
塚原 最近は成田空港です。世界最大の旅客機として有名なエアバスA380が見られるのは長い滑走路のある成田空港と関西空港だけなんです。さすがに関空までは気軽に行けませんから(笑)。
TechShopについて TechShopは2006年に創業し、現在北米で8店舗の他、パリ、アブダビでも店舗を展開する、米国におけるメイカームーブメントの潮流を創った会員制オープンアクセス型DIY工房です。TechShopが提供するレーザーカッターや3Dプリンター、裁縫用ミシン、木材や金属の加工機器などの本格的な工作機器により、アイデアをカタチにすること(プロトタイプ)が簡単になり、個人やベンチャーと大企業のコラボレーションなど、企業、起業家、クリエター、学生、投資家、地域コミュニティが集い、オープンなイノベーションが日々実践されています。 そのTechShopのアジア第一号店として東京都港区(アーク森ビル)にオープンした「TechShop Tokyo」は、日本でのオープンイノベーションによる新た な事業の創出やビジネスの支援・拡大を目指しています。 【TechShop Japan 公式サイト】 http://www.techshop.jp/ 【TechShop Japan 公式Facebook ページ】 https://www.facebook.com/techshopjapan/ |
(2016.08.26)