テクノプロ・R&D社福岡支店所属の研究者 西 栄美子さんが2018年9月7日(金)に母校の京都大学で研究成果について記者発表を行いました。
発表内容は、『葉食ザルは味オンチ?―コロブス類が甘味も苦味も感じにくいことを解明―』
西さんは、以前から霊長類の味覚(特に甘味)に関心を持っていたと話しますが、もともと西さん自身が無類の甘いもの好きで生き物好きだったことが、西さんの関心をサルの甘味に関する味覚に向かわせていったようです。そんな西さんを記者発表の会場に訪ね、話を聞きました。
『葉食ザルは味オンチ?』
西 霊長類の進化の過程でヒトや類人猿と分岐した旧世界ザルはマカク類とコロブス類に大別されています。ニホンザルを含めたマカク類は雑食で、ヒトや類人猿(チンパンジー等)と同じように栄養に富んだ甘い果実を好むのですが、それに対してテングザル等のコロブス類のサルは葉や未熟な果実を主に食べて、私たちには”おいしい”と思える甘く熟した果実はあまり食べないという事が分かっています。そこで京大霊長類研究所の今井啓雄教授を中心として、私たちの研究グループでコロブス類の甘味感覚について詳しく調査してみたんです。
一般に動物が栄養源である甘味のある食物を好むのに対して、コロブス類のサルは甘味を嗜好しない霊長類として非常に珍しいですし、甘い果実などを好む他の霊長類と比べると特殊な味覚や食嗜好、消化システムを持っていると考えられます。
既に京大霊長類研究所から報告済の「苦味感覚の減少」とあわせて、コロブス類は味覚をあまり使わない方向に進化している可能性が高く、進化の過程で甘い果実を食べる他の霊長類や鳥類等との競争を避け、独自の食嗜好を形成していったことが考えられています。
詳しい研究成果は英文になりますが国際学術誌「Primates」に掲載されていますので、ご関心のある方は是非ご覧ください。
https://link.springer.com/content/pdf/10.1007%2Fs10329-018-0679-2.pdf
記者発表の様子
西さんは、これまで多くの研究発表やパネル発表を経験してきましたので、今回の記者発表中も慌てた様子はなく終始落ち着いていました。発表に使用したプレゼン資料に挿入されていたシロアタマラングール(白頭葉候)が森の中で動く様子の動画を見て、恩師の今井教授が説明中にもかかわらず、ついついニンマリする場面も・・・どれだけ生き物好きなんでしょう。
西 栄美子さんプロフィール
2009年4月 日本女子大学 理学部 物質生物科学学科 入学
2013年4月 京都大学大学院 理学研究科 生物科学専攻 霊長類学・野生動物系 修士課程 入学
2015年4月 京都大学大学院 理学研究科 生物科学専攻 霊長類学・野生動物系 後期博士課程 進学
2016年6月 「第17回国際味と匂い学会 ISOT2016」Young Investigator Award ISOT2016
2016年7月 「第32回日本霊長類学会」優秀口頭発表賞
2018年4月 株式会社テクノプロ テクノプロ・R&D社 入社(在職中)
現在、西さんは山口大学医学部大学院医学系研究科で研究補佐員として、免疫学的手法を用いた新たな治療法の開発のため、動物実験、細胞培養などを担当しています。
関連情報:https://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~immunol/member.html
(2018.09.07)