2016年8月6日・7日の2日間、福岡県柳川市で開催された「2016水郷 柳川 夏のみずまつり スイ!水!すい!」のメインイベント “ソーラーボート大会” にテクノプロ・デザイン社の川野慶太さんが『しゅみのふね研究会/Solar ABA ABA 3号』で参加しました。川野さんは、テクノプロ・デザイン社北九州支店に所属する機械系エンジニアで、既に市場に出た商品の設計変更や改良設計を担当しています。
ソーラーボート大会は、『水辺環境を活かした柳川らしいまちづくりと、太陽エネルギーの有効利用の推進を目指して、太陽電池で動くソーラーボート大会を市内の川下りコースで開催し、ものづくりの楽しさ、さらには、楽しみながら環境・エネルギー問題の啓発を行い、豊かな水と太陽の恵みを再認識する。』という趣旨で開催され、実行委員会からはホームページに、「技術立国日本・物づくり大国日本としての技術向上の場としての意義も深く、全国各地の高校、大学、企業など幅広い層から参加をいただいての開催となります。」とコメントされていています。
水郷 柳川を紹介
「水郷 柳川 夏のみずまつり」は、柳川市内に網の目のように張り巡らされた“掘割”と呼ばれる水路を利用して開催される祭りですが、会場となる掘割について簡単にご説明します。
掘割は、現在も筑後平野南部に広く存在する水路で、もともとは有明海に注ぎ込む多くの河川が作り出す低湿地帯に人工的な農地を形成するため、掘削や開墾による“かさ上げ作業”によりできた掘削後の水路がその原型です。
戦国時代になると、柳川城(柳河城)の水の防壁として開発が進み、当時は“九州屈指の難攻不落の堅城”と言われたそうですが、その後、近世に入り、上水道・農業用水路・洪水防止の貯水路として整備されました。
しかし、昭和40年以降、上下水道の拡充に伴い、掘割の実用面でのその役割が失われ、掘割の清掃は徐々にされなくなり、掘割は水草に埋没し、ごみの不法投棄が横行するようになってしまい、その結果、ついには昭和52年柳川市議会で市街地の掘割の埋め立て計画が承認され実施直前まで行ったそうです。ところが、市役所の下水道係長の熱心な啓蒙活動により、一転して掘割の保存・整備を進めることが決定し、翌年53年には掘割浄化計画が策定され、柳川の掘割が蘇ったという歴史があります。
掘割を巡る観光舟“どんこ舟”の船頭さんに聞いたところ、今では毎年1度、掘割の水を抜いて水質の向上に向けた清掃活動が行われているそうです。
柳川市の掘割の総延長は、930kmで、東京・博多間の直線距離、887kmより長いんですね。
ソーラーボート大会日程
参加者
一般の部:18チーム(海外から参加3チーム含む)
学生の部:23チーム
観戦レポート
*大会では別格扱いの川野さん
川野さんは、長崎総合科学大学船舶工学科在学中にソーラーボートをはじめ、同大会では何度も優勝する誰もが一目置く別格の存在です。現在の船は2代目で、『レースをしながら徐々に改良してきたので、仕上がりは万全です。』と、誰にも負けない静かな自信をみなぎらせていました。レースに目を向けると、一般の部では参加18チームで1日目の予選が行われ、タイム順に上位9チームが2日目の決勝に進み、川野さんは2位のタイムで決勝進出です。
2日目は決勝を前に、9:00からスラロームコンテスト(タイムアタック)が開催されましたので、川野さんも準備運動と船の状態を確認するために参加しました。川野さんの船は、どちらかと言うと直進安定性能に優れたタイプで、スラロームは楽しみの一つとして参加している様子でした。
安川電機さんとは永年にわたり行動をともにしていて、今大会でもパドックをお隣同士に構え、2日目の決勝では、安川電機さんも決勝に進出したにもかかわらず、ピット作業のサポートを快く引き受けてくれたり、和気あいあいと2日間を過ごしました。スラロームでは、図らずもたまたま同時に出走の準備となり、良い記念写真が撮影できました。
*勝つための条件
大会前日に本部から支給されるバッテリー2セットをソーラー充電して船の動力にしますが、周回コース3周の決勝レースでは、いくつかの条件が複合的に絡み合って勝利の方程式が見出されている様子でした。
条件1:全速力で走ると1周程度しか充電が持たない
条件2:ゆっくり目に走っても2周は走りきれない
条件3:バッテリーは2セット支給され、レース中に交換する
条件4:交換したバッテリーは、大会本部が用意したソーラー充電施設で充電する
以上の条件で考えると、1周目と2周目が終わったら当然バッテリー交換のピット作業が発生することになり、この手際の良さが勝敗を分ける一つの要素でした。「しゅみのふね同好会」は、今回ピットクルーが足りず、いつも一緒に活動している安川電機さんに3名のサポートをお願いしたことは、先ほどお伝えした通りで、前日と当日にピット作業の練習を入念にしていました。
勝つためのもう一つの条件は、何と言ってもドライバーの経験です。バッテリーは2セットしかありませんので、3周目は、1周目に使ったバッテリーを2周目走行中にソーラー充電して使うことになります。2周目は11分台で1周してしまいますので、2周目を走行している時間内でフル充電はできません。
その日の天気、波の高さ、風の向き、船のモーターの調子、使用電力量などを考えて、1周目にどの位の電力が使えるか、つまりどの程度までスピードを上げても大丈夫かを判断しなければならなりません。まさに、川野さんの真骨頂です。当然ある程度ゆっくり走れば、バッテリーの消費量は抑えることができますが、先頭から離されすぎてはそもそも勝負になりません。
完走を目指しているのではなく、勝ちに行っているわけですから。
*決勝レース
2番グリッド。14:00に9隻が同時スタートで決勝レース開始。
1周目。
1位は、なんと須崎工業高校Aチーム。2位Z-Partyに次いで、川野さんは3位でピットに戻る。全体のトップ須崎工高から遅れること46秒96。最終的には一般と学生は別々に順位が付けられるが、学生に負けるわけには行かない。ピット作業を手際よく終え、2周目の全開走行へ。
2周目。
1周目に2位につけていたZ-Partyが11分を切ろうかという快走を見せ、須崎工業高校と並ぶようにしてトップで戻ってくる。しゅみのふね研究会は変わらず3位であるが、1位Z-Partyとのタイム差が50秒以上開いてしまった。「少し離されすぎていないか?」ピットクルー全員にかすかな不安が広がる。
3周目&ゴール。
ところが3周目、1周約3.1kmの周回コースのおよそ半分位のところで須崎工業高校がスピードダウン。その後、極端にスピードダウンしたZ-Partyを抜き去り、2km地点にいたカメラが見たものは、写真に収まりきれないほど2位を置き去りにした川野さんの姿でした。
38分31秒62、1位でゴール。2位(学生1位)の須崎工業高校には約1分のタイム差をつけ、序盤トップ争いを演じたZ-Partyを抜いて一般2位に浮上したチーム荒巻には約2分の大差で勝利しました。
レース後の川野さんは、「2周目は離されすぎた」と、ちょっと焦りもあったそうですが、「慌ててコース取りを乱したり、インコースを走りすぎてゴミや障害物に接触しては元も子も無い。」「3周目の1.5km地点で、須崎工業高校とZ-Partyを連続で抜く事ができましたので、その後、冷静に走行できたのが良い結果に結びついた。」 ゴール直後には、フジテレビ系列の西日本テレビから優勝インタビューを受けました。
左から
川野さん(テクノプロ・デザイン社、北九州支店技術者)
梶さん(テクノプロ・デザイン社、西日本エリア担当VEM)
田中さん(安川電機、ピット作業でプロペラ周りチェック)
森田さん(長崎総合科学大学OBで川野さんの後輩)
渡部さん(テクノプロ・デザイン社、福岡支店技術者)
嶌本さん(安川電機、ピット作業でバッテリー交換)
泉さん(安川電機、ピット作業でモーター冷却と内部チェック)
※泉さんクルー集合写真に入っていなくて申し訳ありません。安川電機の皆さん本当にありがとうございました。
*レースが終わって
チームは、「今回も勝因は、船の形状とバッテリーの使い方だ。」と言っていました。横波を受けた際に船の体勢を立て直すためスピードを落とさなければならないので、重要なのは波の影響を受けても復帰しやすい船体形状だそうです。「他チームとの1周目のタイム差だけを見るとそれほど変わらないけど、1周目のバッテリーは3週目にも使うので、ペース配分を考えないと3週目の途中で、最後まで走りきるための充分な電力がなくなってしまい、その結果、他のチームは極端にスピードダウンしてしまったんです。それに対して、うちはペースを守ったので、最後まで走りきる事ができました。」とドライバーの川野さん。
船の形状、ピットクルー作業、ドライバーの経験、一つでも欠けると優勝は難しそうです。
とは言え、総合順位の2位と4位に高校チームが入ったのは、来年は強敵になる予感がしますね。
*レース結果
色塗りがその時点のトップで、太字はその周のトップタイムです。
*仲間ができました
レース終了後、インドネシアから参加した大学生たちが、川野さんの優勝を祝ってワッペンを手渡してくれました。日本に留学しているわけではなく、このレースのためだけにインドネシアから来日し、翌日には帰国するそうです。来年も参加予定とのことですので、来年またお会いできる事を楽しみにしたいと思います。
来年は、柳川の風情を感じながらソーラーボート大会を楽しんでみてはいかがでしょうか。
※前列左端がピット作業をサポートしてくださった泉さん
(2016.08.07)