中田喜文の「エンジニア。データからはこう見える!」

Vol.20 「生活・仕事軸からドイツの技術者を位置付けると?」

皆さん、こんにちは。同志社大学STEM人材研究センターの中田喜文です。
いろいろな国の企業を回って技術者の皆さんに話を伺うと、どことなく各国技術者のお国柄のようなものを感じることがあります。最も多く聞取りをしたのは、アメリカ人の技術者ですが、とにかく明るく前向きな印象が強いです。少し慎重で、言葉を選んで話をする人が多い日本人の技術者とは対照的です。私たちの企業調査では、このような印象をより客観性の高い意識調査として、より自分の意識、考えに近い文章を選択する比較設問の形で、各国技術者の意識特性を測定しています。

さて、今月はドイツの技術者についての質問です。以下の4つの比較設問において、ドイツの技術者は、各設問でどちらを選択する確率が高いでしょう。1から4のそれぞれについて、AあるいはBを選択してください。

1 A:自由時間が減っても、現在以上の収入が欲しい
B:収入は減っても、自由時間を増やしたい
2 A:仕事は常に生計を維持し、生活充実のための手段
B:仕事を通して自らの生きがいを実現しようと考えている
3 A:仕事の内容よりも雇用の安定や労働条件を重視する
B:雇用の安定や労働条件よりも仕事の内容を重視する
4 A:仕事にやりがいがなくても、現在の会社で働き続ける
B:仕事にやりがいがなければ、会社を辞めて新しい仕事を探す

もちろん今回も、恒例のヒントを提供します。同じヨーロッパのフランスでもこの同じ調査をほぼ同じ時期に実施しました。2015年末から2016年の初めです。フランスの技術者についての結果は以下の通りでした。

1 A:自由時間が減っても、現在以上の収入が欲しい
2 A:仕事は常に生計を維持し、生活充実のための手段
3 B:雇用の安定や労働条件よりも仕事の内容を重視する
4 B:仕事にやりがいがなければ、会社を辞めて新しい仕事を探す

つまり、技術者としての仕事は、生活を充実させるための手段だから収入は高い方が良いが、その仕事を選択する時は雇用の安定性よりはやりがいを選択する、そんなスタンスでしょうか。如何ですか。ヒントになりますか。

今回は、今年最初のコラムですから、ボーナスヒントをさらに提供しましょう。そう、日本の技術者の場合です。ちなみに皆さんならこの4つの設問についてどのような選択をしますか。私たちが2015年に日本の電機・電子産業、及び情報関連産業の技術者3,115人に調査を実施しました。その結果は以下の通りです。

1 B:収入は減っても、自由時間を増やしたい
2 A:仕事は常に生計を維持し、生活充実のための手段
3 A:仕事の内容よりも雇用の安定や労働条件を重視する
4 A:仕事にやりがいがなくても、現在の会社で働き続ける

私の解釈は、労働時間が長いのでもう少し労働時間を減らしたい、しかし仕事は生活のためだから雇用の安定や労働条件を重視し、仕事内容に少々不満があっても今の会社で働きつづけたい,そんな方が多いのでしょうか。

さて、ドイツの技術者は、フランス、あるいは日本の技術者のどちらに近い考え方をもっているのでしょう。
改めて今月の質問です。以下の4つの比較設問において、ドイツの技術者は、各設問でどちらを選択する確率が高いでしょう。1から4のそれぞれについて、AあるいはBを選択してください。

1 A:自由時間が減っても、現在以上の収入が欲しい
B:収入は減っても、自由時間を増やしたい
2 A:仕事は常に生計を維持し、生活充実のための手段
B:仕事を通して自らの生きがいを実現しようと考えている
3 A:仕事の内容よりも雇用の安定や労働条件を重視する
B:雇用の安定や労働条件よりも仕事の内容を重視する
4 A:仕事にやりがいがなくても、現在の会社で働き続ける
B:仕事にやりがいがなければ、会社を辞めて新しい仕事を探す

ドイツの技術者について下記の表をご覧ください。この表は、IPA(情報処理推進機構)のホームページにも掲載されていますので、詳細にご興味のある方はそちらをご覧ください。

設問 Aに近い どちらかといえばAに近い どちらかといえばBに近い Bに近い
1 5% 30% 51% 14%
2 8% 22% 45% 25%
3 4% 32% 53% 12%
4 12% 33% 35% 19%
資料出所:IPA https://www.ipa.go.jp/sec/reports/20161125.html

 

そうです。ドイツの技術者の大半はすべてBを選択しました。解釈し易い結果とは思いませんか。私の解釈は、自分にとって大切なのは自分のための時間、だから自分の時間が欲しいし、仕事時間も自分の自己実現に使いたい。だから労働条件よりも仕事の内容にこだわり、今の仕事でやりがいを感じられなければ転職もいとわない。如何でしょう。
ちなみに、アメリカの技術者の回答も追加してまとめると以下のような結果になりました。

設問1 設問2 設問3 設問4
ドイツ B B B B
フランス A A B B
日本 B A A A
アメリカ A A B A

仕事に対する思いは、国による特徴もありますが、個人差も大きいですね。皆さんも、自分はどちらかと言うとフランス型かな、あるいはドイツ型に近いかな、と思われた方も多いのではないでしょうか。技術者の皆さんは、外国籍技術者と一緒に仕事をしたり、海外の企業と直接かかわったりする機会も多いのではないかと思います。そんな時、お国柄を知っていると思わぬところで役に立ったり、相手を理解する上での手助けになったりするかもしれませんね。

同志社大学STEM人材研究センターの目的の一つが、「科学技術の領域で活躍する方々がより創造的に活躍できるための環境と施策の構築に資する」研究を行うことです。日本の科学技術発展のためにも、多くの技術者が適材適所で活躍できる環境作りに寄与できる研究を行っていきたいと思います。

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