作家・経済ジャーナリストの渋谷和宏氏とテクノプロ・ホールディングス社長兼CEO(最高経営責任者)西尾保示が対談しました。
日本経済新聞朝刊広告紙面にて掲載(2016年5月23日)
「派遣技術者」と呼ばれる人たちのことをご存じでしょうか。じつは既に様々なメーカーの製品開発の一端を担っており、今後もものづくりを支える技術者として日本の産業社会に一層広がっていく存在とみられています。しかし「派遣」の文字が付くことで大きな誤解も呼んできました。そこで有識者、専門家による対談シリーズを通して、派遣技術者の実像を明らかにしていきます。シリーズ1、2回目は、作家・経済ジャーナリストの渋谷和宏氏と技術系人材サービス大手、テクノプロ・ホールディングスの西尾保示社長兼CEO(最高経営責任者)の2氏が対談しました。
渋谷 3月に派遣技術者を取り上げた「働き方は生き方」(幻冬舎文庫)という本を出しました。私自身、派遣技術者について正確に理解していなかったことが執筆のきっかけでしたが、派遣会社に登録して派遣先を紹介される登録型派遣と、派遣会社と正規(無期)の雇用契約で結ばれた派遣技術者の違いについて、一般的にもまだよく知られていませんね。取材で知り合った20代後半の男性は「技術者派遣の会社に内定し、派遣技術者として働くことになったと郷里の両親に知らせたとき、母親からひどく心配された」と話していました。派遣という言葉から「派遣切り」や「雇い止め」のイメージを持たれたのでしょう。ただ大学の就職担当者や学生たちの間では派遣技術者への理解が進んでおり、今後は急ピッチで定着するように思います。
西尾 派遣技術者をあえて長い言葉で説明すれば「お客様の会社で技術開発をする技術系人材サービス事業会社に所属する正社員の技術者」となります。派遣=非正規社員と誤解されますが、派遣技術者の大多数は人材派遣会社の正社員です。そして正社員であることに3者のメリットが集約されています。すなわち技術者は雇用の安定を求め、お客様はコンプライアンス(法令順守)や情報セキュリティーなどで信用力のある会社の正社員を好みます。派遣会社も教育・研修に多大な投資をした技術者が長く勤めてくれる正社員が望ましいのです。
渋谷 そもそもメーカーの技術者だけでは新製品や新技術の開発が追いつかず、派遣技術者を活用することが既に前提になりつつあります。
西尾 最近は製品のライフサイクルが短くなり技術の陳腐化が速く、開発スピードの向上が求められます。メーカーは即戦力となる派遣技術者を活用して対応しています。自社で人材を育てるには時間がかかり「時間を買う」面も大きいのです。
渋谷 リーマンショック後、派遣契約の打ち切りが増えるなかでも契約が継続される技術者がいました。例えば3次元CADの設計技術など、ものづくりのより上流に精通した技術者たちです。
西尾 当時、教育・研修の大切さを改めて実感し、最新の技術動向を踏まえた実践的な教育・研修によって技術者を様々な分野に再配属しました。技術者の自己啓発だけに頼るのではなく、教育・研修を会社のなりわいに組み込んでいることが重要です。それが当社の社会的な存在意義にも通じると考えています。
渋谷 派遣技術者の方々は欧米では主流のジョブ型の働き方で、常に市場の評価にさらされていると感じました。それだけに優れた技術者になろうとするモチベーションは高く、自身の市場価値を高めることへの意識が非常に高い。そうしたワークスタイルを持つ派遣技術者が日本のものづくりを支える大きな力の源泉になっていると思います。
西尾 社員である技術者の市場価値が上がることで会社も成長します。今後も積極的に背中を押していきます。(次回に続く)