中田喜文の「エンジニア。データからはこう見える!」

Vol.21 最近の技術者事情①  「技術者の雇用はジョブ型雇用、それともメンバーシップ型?」

皆さん、こんにちは。同志社大学STEM人材研究センターの中田喜文です。
最近のマスコミの話題によく出る言葉にジョブ型雇用、メンバーシップ型雇用と言うものがあります。皆さんは、この2つの言葉ご存じですか? 
使われ始めた当初は、この2つの言葉は対比的に使われていました。しかし、最近は、ジョブ型雇用だけが単独で使われることが多いようです。この言葉は、労働経済学者が使い始めた専門用語ですが、政府の雇用政策のキーワードとなり、その結果、産業界も、日本の未来の雇用の形として、ジョブ型を目指しているようです。

では、ジョブ型雇用とはどのような雇用なのでしょうか。まず、ここでのジョブの意味ですが、一番近い日本語に置き換えるなら「職種」、あるいは「仕事」でしょうか。ジョブ型雇用では、雇用された人々はある特定の「ジョブ(職種、仕事)」だけを行い、その「ジョブ」が何らかの理由で無くなれば、基本解雇されますが、逆にその「ジョブ」が無くなることがなければ、雇用は長く継続することになります。そして、担当する職種が変化することはありません。それに対し、メンバーシップ型雇用では、ある企業で就職すると、そこでの雇用は特段の理由が無ければ中断することは無く、その長期に継続する雇用期間中には、多様な仕事を経験し、担当出来る職種や職務の幅は広がり、同時に職務能力も高まって行くような雇用の形です。

では皆さんのような技術者の雇用は、どちらに近いのでしょうか。もし、みなさんの雇用が「メンバーシップ」型なら、キャリアの中で経験する多くの仕事の一つですから、技術者としての職務期間はあまり長くはならないでしょう。しかし、「ジョブ型」なら技術者としての仕事が今所属する組織の中でどれだけ長く必要とされるどうかに関わりなく、それぞれの技術者の持つ技術や知識に対する市場ニーズによって就業期間の長さが決まることになります。

そこで今月の質問です。40歳前半のシステムエンジニアの内、この仕事を15年以上続けている人の割合を、次の5つの選択肢から選んでください。

1)20%未満
2) 20%以上40%未満
3)40%以上60%未満
4)60%以上80%未満
5)80%以上

今回のデータは、令和4年6月に調査された『賃金構造基本統計調査』から探してきました。色々な職種について、男女別や企業規模別に年齢と職種経験年数別の雇用者数と平均月間給与が表の形で公開されています。その表を使って、掲載されている143職種について、様々な年齢グループ内で、長期にその職種に従事している人の割合を計算しました。今回40歳代の前半層を選択したのは、就業経験年数のグループ分けの中で最も長いのが15年以上となっていたからです。もし、20歳代前半で大学や大学院を卒業した場合、新卒で技術職に就いたなら就業経験年数の最大値は20年となります。40歳前半層の就業経験15年以上グループだとほぼほぼ、そのような新卒継続組を網羅できます。15年以上にわたり同一の職種に就業し続けるのは、ジョブ型雇用ではあり得ても、メンバーシップ型雇用では、想定されにくい人たちである、ということを前提にしています。この割合の高さで、技術者の雇用がジョブ型とメンバーシップ型のどちらのタイプに近いかを見てみよう、というわけです。もちろん、今月もヒントを提供します。

ヒント1
143職種の中で、40歳代前半層の15年以上の同一職種の就業継続者の割合がもっとも高かったのは、89.4%の大工でした。

ヒント2
143職種の中で、40歳代前半層の15年以上の同一職種の就業継続者の割合がもっとも低かったのは、11.7%の事務用機器操作員でした。

さて、改めて今月の質問です。40歳前半のシステムエンジニアの内、この仕事を15年以上続けている人の割合を、次の5つの選択肢から選んでください。

1)20%未満
2) 20%以上40%未満
3)40%以上60%未満
4)60%以上80%未満
5)80%以上

以下の表は、賃金構造基本統計調査で調査された11の技術職種についての40歳前半層の内、15年以上その職種で就業し続けている人の割合です。

職種名 15年以上割合
測量技術者 71.2%
建築技術者 67.8%
システムエンジニア(システムコンサルタント・設計者) 66.4%
輸送用機器技術者 64.6%
金属技術者 62.8%
ソフトウェア作成者 62.8%
土木技術者 60.8%
電気・電子・電気通信技術者(通信ネットワーク技術者を除く) 59.1%
機械技術者 51.4%
その他の情報処理・通信技術者 49.8%
化学技術者 45.9%

そうです、システムエンジニアの15年以上就業率は66.4%、正解は、4)です。これら11職種を見る限り、大半の技術職では、過半の技術者が新卒後20年経っても、同じ技術職を続けています。このデータからは、技術職は、メンバーシップ型と言うより、ジョブ型に近いようですね。次回は、この点を別の視点からさらに検討してみましょう。

同志社大学STEM人材研究センターの目的の一つが、「科学技術の領域で活躍する方々がより創造的に活躍できるための環境と施策の構築に資する」研究を行うことです。日本の科学技術発展のためにも、多くの技術者が適材適所で活躍できる環境作りに寄与できる研究を行っていきたいと思います。

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