各自動車メーカーが準自動走行の自動車を市場に送り出し、完全自動走行の自動車の登場も夢ではない時代がそこまで来ています。
テクノプロ・デザイン社車載組込開発センターは、このような自動車の準自動走行や完全自動走行に向けた各種制御機器やセンシング技術の設計開発を行っていますが、車載組込開発センター神戸事業所を舞台に、これら自動車開発のノウハウを活かした自動運転シニアカーの開発が進められています。市販のシニアカーをベースに開発を進められているため「シニアカー」と呼びましたが、幅広いユーザーを対象に観光用途で利用されることを目標に商品化を目指しています。
このたび、プロジェクトリーダーの後藤紀夫さん、メンバーの岩瀬一哲さん、吉田稜さん、吉田匠汰さん、圓山秀樹さん、北内奈美穂さんに集まっていただき、開発秘話や苦労したエピソードなどをお聞きしました。
きっかけは自動運転のモデルカー
―シニアカーの自動運転化プロジェクト発足の経緯を教えてください。
後藤 毎年東京ビッグサイトで開催される「クルマの先端技術展 オートモーティブワールド」に、今年は何を出展するかというところから始まりました。昨年・一昨年は、10分の1スケールのモデルカーに、自動運転の技術を搭載したものを出展しましたが、今年はもっと大がかりなものに挑戦したいということになり、何が良いか検討を進める中で、シニアカーの自動運転が候補に挙がりました。シニアカーと言っても、今ではデザインがスタイリッシュで若い方にも受け入れられそうなものが販売されていて、自動運転化が実現すれば観光用途に利用できるのではないか、と考えたのです。そこでこのプロジェクトチームを立ち上げ、ハードウェアやソフトウェア、また商用化に向けた企画を考えてくれるメンバーを集めました。通常業務との並行になりますので、打ち合わせに全員が参加することは難しく、またあまり多くの時間がさけない状況ですが、最先端の技術を追求することはエンジニア冥利につきますね。
安全性と利便性の天秤に苦悩
―現在、開発はどこまで進んでいますか。
後藤 現在開発中のモデルは、リモコンで遠隔操作したり、人に追走したりする工程を経て、障害物を感知しながら走行する段階まで来ています。通常のシニアカーに超音波距離センサーと赤外線測距センサーを搭載することでこれを可能にしました。実は、センサーが上手く駆動するまでには地道な苦労がありましたよね?
吉田(稜) そうなんです。レーザーがどの範囲まで障害物を認識するのか、少しずつ手作業で範囲を変えながら緻密に計測したときは本当に大変でした(笑)。苦労はありますが、シニアカーの開発でセンサーなどの部品選定を通して、仕事や知識の幅が広がったのはすごく良かったと思います。私は主にハードウェアの開発に携わっていますが、ソフトウェアの部分は岩瀬さんが主に担当してくださっています。岩瀬さんは何か開発途中で苦労したことはありますか?
岩瀬 そうですね・・技術自体は最新でも、制作は地道な作業の積み重ねです。自動車は、原則道路を走行しますが、シニアカーは言ってしまえば交通ルールの無いところを走ったりしますので自動車とは比べ物にならない程、想定外の障害物を考慮しなくてはならないんです。例えば今は人に追走する機能を付けていますが、人間と障害物の違いをどのように認識させるかという問題もありますし、安全性を重視しすぎると、あたり一面が障害物だらけになってしまいしょっちゅう停止してしまいます。かといって利便性だけを優先してしまうと、衝突などのトラブルが懸念されます。日々課題にぶち当たってばかりですが、一つひとつクリアしていくことが楽しくてやめられません。
吉田(匠) 私はこのプロジェクトに入って、自動運転技術の勉強をさせていただいています。通常の業務は検証を専門に行っているため、違う分野の知識を身につけたいと思いました。特にレーザーとカメラを組み合わせた測距性能の技術は、今後新たな業務に挑戦する際に役立つと考えています。
いつか神戸の街で人を載せて走らせる未来を
―商用化を目指すとのことですが、具体的にどのようなプランを描いているのでしょうか。
圓山 神戸市はハーバーランドや港付近に観光スポットが集中しているのですが、まずは、そのエリアで自動運転のシニアカーを運行することを目標としています。レンタルにするのか、販売にするのかなど詳細はまだまだ構想段階ですが、これが実現すればテクノプロ・デザイン社としても技術力が認められる機会になるのではと考えています。
北内 コンセプトは、高齢者や障害を持つ人のためだけではなく、どんな人にでも乗ってもらえるようなシニアカーにすることです。そういう意味では、名称もシニアカーではダメですよね。検討を進める中で、人力車型のデザインやパラソル付きのデザインなど、様々なアイデアがでました。そうそう、女性が抵抗なく乗れるということもすごく重要ですよね。さらに、神戸のベイエリアは移動という意味では公共の交通機関が充実しています。そんな環境で、あえてシニアカーを利用してもらうためには、単なる移動手段ではなく移動そのものを楽しむようなことであったり、シニアカーでないと実現できない何かであったり、そんなことがポイントになると思っています。
圓山 そうなんです。今北内さんが言ったように、わざわざお金を払ってゆっくり移動するとなると・・・移動自体に付加価値がないと選んでもらえませんよね。
後藤 自動運転シニアカーの制作期間としては2年間を目途としています。東京オリンピック・パラリンピックの時期に間に合わせることは難しそうですが、2025年の大阪万博の際には完成したシニアカーを皆さんにお披露目したいですね。開発構想としては、まず自動運転を目指しますが、すでに話題になっていたり、他の企業や公共団体が手掛けていたりするようなものでは勝負にならないと思っています。3年先・5年先を見据えた取り組みとしてスタートを切ったばかりのプロジェクトなんです。
後藤リーダーをはじめメンバー全員がプロジェクトの未来に想いを馳せます。業務ご多忙中、楽しいお話をお聞かせいただきありがとうございました。神戸の街を走る魅力たっぷりのシニアカーの完成が楽しみです。
(2019.09.24)
シニアカーを動画でご紹介
障害物を感知しながら走行する様子がご覧いただけます。