今回は、国立大学法人 豊橋技術科学大学エレクトロニクス先端融合研究所(EIIRIS)を訪問し准教授 鯉田孝和博士(工学)と准教授 沼野利佳博士(医学)にお話を聞きました。EIIRISは、同大学初めての研究所として2010年10月1日に設立され、センサ・LSIやフォトニクスデバイスなどの『エレクトロニクス基盤技術分野』とそれを用いて研究を展開するライフサイエンス、医療、農業科学、環境、情報、通信、ロボティクスなどの『先端的応用分野』との新たな融合を目指した異分野融合研究拠点として整備、拡充されています。研究所には、①先端センシング、②ブレイン情報テクノロジー、③バイオ・グリーンテクノロジー、④先端材料計測の先端融合研究4領域部門と、研究支援・人材育成部門があり、連携して研究活動を展開しています。
今回お話を伺った鯉田准教授と沼野准教授は、お二人ともEIIRISで神経電極開発と脳神経科学の融合研究に携わっていて、知覚認知行動に関わる神経基盤の理解を目指して、実験施設「ライフサイエンスラボラトリー」でマウスやサルによる動物実験を行いながら、同時に脳計測に必要な新しい神経電極(豊橋プローブ)の実証実験も行っています。
お二人が研究活動を行うエレクトロニクス先端融合研究所ライフサイエンスラボラトリーには豊橋技術科学大学とテクノプロ・R&D社が共同研究を進めるラボも入居していて、入り口にあるINFORMATIONには「107 TechnoPro R&D-TUT Lab」と表示されています。
ものを見たら脳は何をしているの?:鯉田准教授
「『見る脳のしくみ』を解き明かす。そのためには2つのアプローチがあるんです。」と、鯉田先生はパネルを示しながら目を輝かせます。
鯉田先生 一つ目は見たものをどのように脳で画像処理し神経が計算するのかを脳の細胞を測ることにより解明していく方法で、2つ目は人の感じ方など心理学的側面から解明する方法です。情報は脳で処理されているとはいうものの、神経細胞にどのような法則で情報が表現されているのか?どのような演算が行われて、認知や行動に反映されるのか?その情報処理は心や意識と関係しているのか?このような脳と心の謎を解き明かすための最も直接的な方法が認知行動中の動物からニューロン活動を測定する実験なんです。この実験においてニューロン活動を測定するため豊橋プローブを使っています。
今、色弱の話がありましたが、何を見てどのように判断しているかは未知の部分が多く、経験上ここにあるのは”赤”だろう、というように判断するケースもあったりして、まさにニューロン活動の測定と心理学的側面の両面からアプローチする必要があります。
ラットの模型で豊橋プローブを埋め込む方法を見せていただきました。ラボには病院の手術室の縮小版があり、実験に利用した動物は鯉田先生自らが施術し、その多くは天命を全うするそうです。なんだか少し”ほっと”しました。
時差ボケは無くなってほしいですよね!:沼野准教授
沼野先生 動物、植物、菌類、藻類などほとんどの生物には、行動や代謝などが約24時間で変動する生理現象である概日リズム(がいじつリズム)が存在していまして、これが一般的には”体内時計”と呼ばれるものです。
概日リズムは内在的に形成されるものですが、光の強さや温度、食事などの外からの刺激によって時計の位相が修正されています。海外旅行などでこの約24時間の周期が乱れる環境におかれると概日リズムが乱れて、大変不快感のある”時差ボケ”を起こすことになります。ラットや我々にも脳や体中に24時間の体内時計があって、ラットに6時間程度の時差ボケを与えると、脳は1日程度で時差が調整されてしまうのですが、体のリズムが完全に調整されるためには約1週間程度必要になってしまいます。
つまり、時差ボケとは、脳と体の時計が脱同調した状態なんです。もちろん、時差ボケには個人差がありますので、ほとんど感じない人もいると思います。でも、アスリートや芸術家などの様に決められた時間と場所で極限のパフォーマンスを発揮することが求められる人にとっては、ほんのわずかのリズムの乱れもアウトプットに大きく影響するという事になってしまいますので、この乱れを最小限にするという努力や工夫が必要になってしまいます。
また、人によって時計の位相を手前に調整する方が楽な人と、後ろに調整する方が楽な人がいることはわかっていて、同じ人でもアメリカとヨーロッパでは時差ボケの程度が違うようです。人間は宵っ張り(後ろに調整する)傾向があるので、一般的にはヨーロッパの方が楽のようです。でも、いつか時差ボケのメカニズムが神経の活動や遺伝子の機能を介して完全に解明されて、無くなるといいですよね。
鯉田先生、沼野先生、お忙しいところ楽しいお話をありがとうございました。これからも共同研究をよろしくお願いいたします。
(2018.08.21)